エレボタ|エレベーターのボタン収集鑑賞

超貴重!エレボタ製作現場見学記

エレベーターのボタンはどこでどうやって作られているのか

よくよく考えると、街で観察できるエレベーターのボタンは、製造され、設置され、現役稼働して久しいものだけ。故障したら撤去されてしまうし、製作中の様子なんて知ることができない。街なかのエレボタ達はどんな場所で、どのように作られているのだろうか?作り手はどんなことを考えているのだろうか?つねづね製作側を見てみたいと思っていました。

そんなある日、突撃すぎるご依頼に快くお応えしてくださった親切な会社さまによって管理人の願いが叶いました!長年の疑問をクリアにするべく、普段なかなか目にすることのできない製作現場におじゃまさせていただきました。

いざ製作現場へ。50年以上の歴史をもつ製作会社におじゃまします

自社工場を案内してくださったのは東京都大田区にある株式会社オリエンタル工芸社様。
エレベーターの押しボタンはもちろん、操作盤や、カゴの到着を知らせるランプ、非常用スイッチなど、エレベーターにかかわる製品を製作・販売されている会社です。
こちらのオフィス&工場におじゃまして、杉本亨社長と杉本稲生社長代理にお話をうかがいました。

ビルやマンションは当たり前。想像以上に多様な場所で活躍しているエレベーター達

オリエンタル工芸社様の取引先は50社以上。ビルや住居用のエレベーターだけではなく、冷蔵倉庫、船舶、病院など様々な環境に対応するエレベーターの製品を取り扱っています。
一口で「環境に対応」といえど、超低温環境などの温度帯、湿度、防水性能、潮水がかかっても問題ない耐食性、抗菌性能など、見た目ではわからないところでも工夫が必要です。

たしかに、倉庫や大きな船舶にもエレベーターがありますね。見たいジャンルが増えました!

オリジナル製品はなんと22種類。特殊な環境に対応するボタンを自社開発

そのため、ボタンひとつを見ても形や仕様はさまざま。

製作場の柱には自社開発のボタンがズラリと並びます

場所に適した使いやすさを追究。心くばりは細部に宿る

エレベーターのボタン製作において重要視していることは、なにより設置環境ならではの事情や、場所に適した使いやすさの追究だといいます。

たとえば船舶では、海水がかかっても影響しない強力な防水性と潮風など塩分による腐食に負けない耐食性能を強化した仕様を。病院や公共施設などちいさな子供から高齢者まで多くの人が触れる場所には抗菌素材を使用するなど。

工夫は内部の機構だけではなく、ボタンの形や大きさなどの造形面にも表れています。

たとえば病院のエレベーターは、カゴもボタンも街なかで見かけるものより大きめです。大きなボタンは見つけやすくていいのですが、その面積の大きさゆえ力が均等にかかりにくく、中央を強く押しこまないといけません。

そんな大きなボタンの困りごとをオリエンタル工芸社製のボタンはやさしく解決。

「患者さんや高齢者の弱い力でも無理なく押せるように」(杉本亨社長)

ボタンの隅っこを押してもランプが点灯する工夫がなされています。細やか!

何のため?ボタンの奥にある模様に隠された機能性

こちらのボタンは奥に模様が施されています。たまに見かけますね。

これは光が反射した時にもボタンの表面に書かれているサインを見やすくするための大切な工夫。ダイヤカットと呼ばれる技法だそうです。たしかに西日が射してボタンの表面が読めない時とかあるある~!!

一見すると自転車の反射板で使われる模様のように見えますが、光を反射するか/逃がすか、効果は真逆なのですね。技術ってすごい。

ちなみにこちらは防水性能を強化した新製品でもあり、なんと丸一日(!)水に浸っていても平気なのだとか。

機械化はしない。手作業だからこそさまざまなオーダーに対応できる

このとおり、エレベーターのボタンに求められる機能は設置される環境や利用者や場所性に応じて千差万別。多様なクライアントからのオーダーに柔軟に対応することを重視して、あえて機械化せず人の手で製作しているのだそうです。

組み立ての様子。こうして1つ1つ手作業で丁寧に仕上げられていきます。

少しずつ組み立てられていくボタンの裏面。このようになっています。こちらは船舶のエレベーター。

細かい部品や図面に工作機械。モノの多さを感じさせないほど片付けの行き届いた「優工場」

工場の中にはいくつもの加工機械、製作中の部品、図面、書類などがどっさり。細かい部品や似たパーツも多いです。モノの量はかなり多いはずですが、きれいに整理整頓されており作業中でもごちゃごちゃした印象は受けません。引出のラベリングなどから信頼感が伝わってきます。それもそのはず、オリエンタル工芸社様は大田区が認定した称号、お手本となる工場に送られる「優工場」に選ばれています。校外学習をはじめ外部の人が見学に来る機会も多いため、日頃から工場内はきれいに整頓されているのです。

それで管理人の見学も許してくださったのですね。ありがたい……!

展示会への出展は一般利用者の反応を知る機会

また、オリエンタル工芸社様では、展示会での新製品の発表とともに、一般の方や子供にもボタンに親しむことができる工夫で好評を博しているそうです。

目指したのは猫の肉球!攻めのチャレンジで未来の押しボタンの可能性を探る

また、オリエンタル工芸社様では、展示会での新製品の発表とともに、一般の方や子供にもボタンに親しむことができる工夫で好評を博しているそうです。

なかでも大好評だったのが肉球がモチーフのボタン

猫大好きの稲生社長代理がとくに思い入れをもって開発した一品です。猫の肉球さながらのプニプニした弾力で、触れた時の意外な冷やっこさまでリアル。こんなボタン見たことないです!新しい!

「猫好きの人に親しんでもらえる場所で使っていただけたら嬉しい」(稲生社長代理)

と、型にはまらない発想で押しボタンの可能性を探ります。

まとめ

作り手達による配慮がエレボタの品質を高めてくれた

製作現場でさまざまなお話をうかがい、エレベーターのボタンは、使う人や設置場所に寄り添った思いやりと工夫の結晶なのだということを改めて実感しました。

あわせて利用者(=人)にも、設備(=機構)としても無理なく永く使える品質を追求する姿勢を感じました。場所によっては1週間もたずに破損するボタンもあるそうです。

エレベーターは1万点以上の部品と技術者たちの心くばりでできている繊細な乗り物です。管理人には所有しているビルもエレベーターもありませんが、エレベーターには大切に乗らせてもらおうと思います。そして今後はなぜこの場所にこのボタンが使われているのかまで思考を巡らせ、一歩踏み込んだエレボタ観察に励みたいと思います。

面識もなければエレベーター製造にもかかわっていない一般人からの突然のお願いにもかかわらず、業務時間を割いて案内してくださった杉本亨社長と稲生社長代理、スタッフの皆様、貴重な機会をいただきありがとうございました。

この他にもたくさんのお話をうかがいました。ご紹介できなかった内容はまた別の記事にさせていただきます。

株式会社オリエンタル工芸社ホームページ

初出:2018年10月2日