エレボタ|エレベーターのボタン収集鑑賞

読むエレボタ|「誰でもわかる上下二択」のさまざまな回答〈下〉

エレボタの分類、後半です。だんだん地味で細かくなっていきます…!

前回に見ていただいたエレボタ種類分けのツリー図がこちら。
今回は分類軸の〈サインの形〉〈立体感〉について。まあまあ大盛りです。
掛け合わされる〈ボタンの装飾〉〈ランプ(インタラクティブな要素)〉〈盤の装飾〉はこれまた長くなりそうなので、それぞれ派生した記事にまとめようと思います。

サインの形

ボタンの中に示されている上下の表現。矢印と三角が主流ですが、マイナー群に案外いろいろな種類があります。
※ちなみに図中の年数表記はエレベーター設置の時期です。竣工年月などから推定したものにつき、厳密なものではありません。あくまでおおよその傾向をつかむ目安としてください。

①矢印

近年では細めの矢印をよく見かけますが、1970年代前後にはゴツめの矢印も使われていたようです。赤と緑のカラーリングも相まって、レトロゲームっぽい趣がありますね。
太めの矢印ボタンと設置年数
2024年現在稼働中で日本最古(今年で稼働100年!)と言われているエレベーターではかなり軸太の矢印が使われています。
1933年竣工の百貨店内と並べてみるとどことなく矢印のフォルムが似ていますね。この時代のトレンドでしょうか。

細めの矢印はこんな感じ。
断定はできませんが、近年になるほど傘の開きが大きくなりつつある傾向です。
細めの矢印ボタンと設置年数
設置時期に25年近く差がある2つを比べてみると、軸がわずかに短くなっています。この違いが傘の開きを大きくしたように見せるのでしょう。カラスの足跡っぽいフォルムになりました。

また、近年は端部処理のレパートリーが増えました。それぞれに個性が表れています。
神は細部に宿るというやつですね、きっと。

以前はJIS規格の矢印が使われているものが多めでしたが、2020年以降見かけなくなってきています。規格云々よりも多くの人が納得する視認性の高いものが選ばれる世の中になったのだ、と私個人は思っています。
矢印の世界は恐ろしく広くて深いのでいったんここまで。また別途。

②三角

扁平から縦長までさまざま。正三角形がメジャーですが、わずかに長体のかかった三角も実は多く見られます。
ほんの少しタテナガな程度では長体だと気づきにくいですが、並べてみると違いがわかりやすいかと。

縦長の三角はどこかリッチな余裕を感じます。扁平三角は工業的というか、インダストリアルな香りがします。

図の中でもっとも扁平三角の丸ボタンはシンドラー社のエレボタですが、2016年に日本から事業撤退してからはめっきり見られなくなりました。

③矢尻型

三角の底辺が少し反ったもの。遠くから見るとほとんど三角に見えますが、三角と比べるとややレトロな雰囲気を感じます。反りの程度はさまざまですが、より強いものほどレトロなイメージがあります。なぜなんだろう。

また、底が角ばっているか・ラウンドかでも雰囲気が変わりますね。
今まで見た限りでは、矢尻のなかでは角型が多く、ラウンド型は比較的珍しいと思います。

小ぶりの白四角に黒線の矢尻サインが印象的なエレボタはOTIS製エレベーターでよく見られましたが、近年はどんどん数が減っています。どうやら正三角形サインの丸ボタンに順次切り替えられているようで、矢尻サインが今以上にレトロな存在になる日も近づいているのかもしれません。

④その他

矢印でも、矢尻でも、三角でもないけど上と下を示すもの。そんなものあるだろうかと思いますが、案外ありました。
角度やディティールはさまざまですが、ダッシュマークというか「くの字」サイン。それを複数重ねたタイプもあります。

さらなるアレンジ展開で、三角の下に横棒を組み合わせてカスタマイズされたものがありました。横棒の位置次第でCDデッキの取出しマークや、アルファベットのAをアレンジしたようなシンボルになります。オリジナリティ!ここまでくると好きずきの範疇ですね。
そもそも見た人に上と下が伝わる意匠なら良いわけで、三角や矢印以外を使ってはならないという決まりはありません。

⑤複合

矢印サインと言語表記など、先に列記した要素を組み合わせてボタンに盛り込んだもの。

ちなみに香港では独特の矢尻サインと点字がセットになっているボタンをよく見かけました。矢尻サインは両手で三角形を作ってみせるしぐさのように中央でうっすらつながっています。設計基準があるんだろうか。

立体感

次はボタンの立体感について見ていきます。
具体的にいうと、壁や操作盤をグラウンドレベルと考えたとき、ボタンがせり出しているか・奥まっているか・あるいは凹凸なしの真っ平らか、ということです。フチ部分だけがせり出しているが中央がへこんでいるような起伏のダイナミックな装飾を施されたボタンもあります。
顕著な凸型から緩やかなものまで、立体感が楽しいエレボタを見てみましょう。

凹凸複合タイプのボタンの例です。総じてフチがモリモリ隆起して中央が凹む装飾が多めですね。
こちらはあえて正面カットだけのご紹介にしておきます。実際に見るとどういう感じかは想像してみてください。笑

メンテナンス性と使いやすさの両立

ここ20年くらいの変化をざっくりとらえると、凹凸は少なくなってきています。
これはおそらくメンテナンス上の理由で、ボタンの可動部を守りたいから。凹凸のあるボタンほど可動領域が大きいため、ゴミや異物を噛んで故障しやすいといいます。盤とボタンの段差が少ない方がメンテナンス上都合がよい。そのため、すき間のないフラットなデザインが採用されやすいのでしょう。
また、駅の地上連絡口船舶など、雨風や砂塵にさらされる場所のエレボタにはフチがついているものが多いです。水や汚れから機構部分を守るための工夫のひとつでしょう。
一方で、完全にフラットにしてしまうデメリットも。視力が弱い高齢者や目の見えない人にそれがボタンだと認識されないおそれもあります。
この2つを解決すべく、近年ではフラットだがサインの部分だけをエンボスさせたボタンが良く使われています。ボタン表面の凹凸で矢印の向きがわかる触知機能を持ち、視覚だけに頼らない案内の工夫がなされています。

ということで、今回は〈サインの形〉〈立体感〉についての話でした。
ボタンの装飾やランプなど、まだまだ書きたいことがどっさりあるので、少しずつ放出していきます。